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感動的な言葉ではなく、母に「おまえはおっちょこちょいだ」と言われたことです。「おっちょこちょい」の意味は、「落ち着いて考えないで、軽々しく行動すること」。こどもの僕は母の言葉をそのまま受け取り、自分は「おっちょこちょい」なのだと思いました。言葉の意味はおよそ理解していたので、その後のセルフイメージを形づくるのに貢献したと思います。
振り返ってこれがどう影響したのかを考えてみます。もしも「おっちょこちょい」のあとに、「どうしようもない」とか「恥ずかしい」といった、否定や諦めの言葉が続いていたら、セルフイメージは小さくゆがんだものになったかもしれませんが、僕は伸び伸びとした「おっちょこちょい」になりました。
落ち着いて考えないために右往左往し、軽々しく行動して間違いや失敗をし、謝ることも多々ありました。ある夕方に留守番をしていた時、電灯をつけずにろうそくで部屋を明るくしようと思い立ち、障子の桟(ルビ:さん)にろうそくを立てました。障子紙に光が映ると明るくなると思ったのですが、光と一緒に火が燃え移りました。大事にならなかったのが不思議です。またある時は、近所の家の裏で京ブキを栽培していました。栽培とは考えず、母を驚かそうと刈り取って家に持っていきました。「どこから採ってきたの?」と問われて答えた時の母の驚きは大変なものでした。
そんなことがありながらも、母は僕をそれなりにかわいがってくれたのでした。たぶん、おっちょこちょいの息子を楽しんでいたのではないかと思います。結果的にこれがよかったのでした。なぜなら、結婚して42年経って、妻は僕のことを「思いついたらすぐに行動する行動力のある人、自分とはそこが違う」と言ってくれます。おっちょこちょいが褒められた気分です。こどもの頃にかけられた誰かの言葉がどのような影響を与えるか全くわかりませんが、発した人の心と一緒に受け止めているはずです。かわいがってくれた人の言葉を忘れずにいたいものです。
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