ぼくはショベルカー
対象児:3歳児 男児H 時間:40分 場所:4歳児前砂場 2022年4月20日記録
記録
いつものように朝一番にHが砂場に出ていく。いつもは小さめの砂場で遊んでいるが、今日は乳児の先客がいたことから、大きな砂場のほうで遊んでいる。
朝の準備に保育者が用意した大きな砂山の周囲に水を流して遊んでいる。汚れを気にしているようなので、汚れてもいいように服を脱ぐように保育者が問いかけてみる。すると、自分で服を脱ぎ、準備をしていく。最初はおそるおそる水の中に入り、砂を触っていく。大きな山を「ドリル」と言いながら保育者と掘っていくと、大きな山の一角が崩れる。「うわー!」と驚きの声をあげる。保育者が「すごいですねー!」と笑いながら言うと、大きな山の頂上を崩すようにシャベルを使っていく。「ウィーン」と言いながらショベルを持ち上げているので、保育者が「ショベルカーみたいですね!」と言うと、さらに「ウィーン」「ウィーン」とショベルカーのような動きをしていく。保育者も「はるくんショベルカーですね」と言いながらHの動作をまねていく。
最初に崩すときは、ショベルを縦にして、その部分をショベルカーのようにショベルを裏がえし土を掘り、次に通常のように掘り出し、たたきながらならしていく。保育者に「ショベルカーはたたくこともできるんだよ。」と言いながら、大きな山のてっぺんをたたきながら土をならしてく。どんどん、自分の背丈ほどもあった大きな山を崩していく。
省察
①基盤的環境:7つの文化財産「保育材」砂、水、ショベル
おおとりの森こども園には、3つの砂場が存在する。ひとつは3歳児の保育室の前の小さく深い砂場。ふたつめは4歳児の保育室の前の深く広い砂場。みっつめは、園庭奥の死角になる形がいびつな浅い砂場がある。砂は子どもたちが力を加えることにより、容易にその形を変化させ、子どもたちの要望に応えてくれる優れた環境である。新入園児のHでも、自分の発想や遊びやすさや親しみからも、砂場で好んで遊んでいることが予想される。また、ショベルとショベルカーということばの連なりやつながりを感じ、自らの遊びに活かしていき、道具を自分のイメージと重ね合わせながら、遊べるところも素晴らしい。
②遊びの種類:ごっこ遊び
現実的な体験や知識である、工事現場や工具や機械と、遊び場である砂場とショベルなどの道具、そして言葉の重なりなどを、フルに活かしながら、自分の遊びへのイメージを表現している姿に感銘を受けた。ショベルカーの動きを日ごろから観察していたこともうかがえ、その現実的な体験の土台のもとに、今回の遊びに想像力を活かしながら、自分の遊びを成立させていることがうかがえる。
③誰が遊びのイメージをリードしたのか:3歳児H
Hが連日砂場で遊んでいる。入園してからも朝の始まりの遊びとして、自分のルーティーンを決めているようだ。最近は気温の高まりもあり、水をトイで流して、小さなスコップをもって遊んでいる。しかし、はじめての制服を気にしてか、あまり汚れる様子がない。服を脱ぐことで、もっと彼が望んでいることがしやすいのではないかと考えたが、やはり遊びに大きな動きがうまれた。しかし、保育者の想像以上に自分の世界観を持っており、イメージを具体化する力を蓄えていることが理解できた。今後もHとのかかわりや興味などを探るうえで、非常に有用な姿を見ることができた。
④考察
3歳児の新入園児ということもあり、おおとりの森こども園では非常に不安な気持ちをもって登園していることは想像できる。また、母曰く最近人見知りが多くなっているということからも、まずはHの遊びのルーティンや動きややりたいことは何かを知りたく、入園から2週間近く様子を見ていた。砂場での遊びに安心感を感じて、園内での生活にも不安定な様子や一日の大まかな流れを掴んできているところから、そろそろ何か遊びをダイナミックにしたり、彼自身の殻を破りたがっているのではないかと考えた。近くで遊ぶ4歳児や5歳児の様子も、じーっと見ている様子からも、それがうかがえた。
自分のイメージを具体化することは非常に人間として知的な行動であり、ショベルを的確に動かす姿は保育者もうならされた。自分のイメージを芯に持ち、それを崩すことなく、遊びを進めていく様子からも、余計なイメージを入れずに、まずはHと同じ行為を楽しむことにした。Hが「ショベルカーはたたくこともできるんだよ。」と保育者に伝えてくれたことからも、遊びの主導権をHが握っていることがわかる。
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