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アサガオが抜かれた

対象児:5歳児 女児S 時間:30分 場所:園庭・保育室 2022年6月17日記録


記録

 5歳児は、アサガオを一人一鉢で育てている。保育者がフッと見るとSのアサガオの芽が抜かれている。保育者が、「Sちゃん、こっち来て、アサガオが抜かれている。」と至急伝えに行く。Sが「え!」と言い、駆け寄ってくる。他の5歳児も「どうしたん?」とNとHが来てくれる。Sの鉢をのぞくと、土が掘り起こされたように、抜かれている。NとHが「誰がやったん?」と聞くので、保育者が「分からんのよ。」と伝えると、NとHが「聞いてくるわ。」と各保育者に聞いてまわってくれる。Sは「ありがとう。」と言いながら、元の遊びに戻る。保育者も各保育者に聞いてまわり、真剣な表情と様子で、状況を整理していく。


 少し様子を見て、NとHが「みんな分からんって言うてる。ここ見張っとくわ。守らんといかん。」と、みんなの鉢の前にいる。Nが「ここ危ないなー。」と伝えてくる。保育者がSに「Sちゃん、NとHが守ってくれてるわ。どうする?」と呼び戻すように伝える。Sは不安気な顔で、「どうしよう?」と言うので、年長クラス全員で集まることにした。まずは全員に状況を説明する。そこで、保育者が「今日のサークルタイムで話をしよう。どうしたらいいか?」と言うと、口々にアイデアが出てくるので、「そうやって、みんなで考えよう。みんなもどうするか?考えとこうな。園長も考えとくわ。」と伝える。

 おやつ後のサークルタイムで話し合いが始まる。保育者が、もう一度状況を説明して、保育者が「僕はすごく嫌で、ショックです。Nがね机の上にあると危ないと言ってくれたけど、どうする?」と伝える。Sが「でもね太陽にあたらないと元気なくなる。」と言ってくる。Nも「でもさ、お部屋においても、たくさん伸びると、天井にあたってフニャンとなっちゃう。」と言う。保育者が「お部屋の中は電気はあるけど、太陽はあたりにくいね。」と言うと、Iが「え?電気も熱いの?」と言う。じゃあ消してみようと電気を消す。暗いとなり、保育室に置くことはやめになる。Yuが「外に置かないといけない。」と発言する。Nが「じゃあさ、そらクラスのやつって、書く。」と言うので、保育者も腰をおろして、丸くなるようにして顔が見えるように座りなおす。「いいこと言うよね、みんな。」と伝える。

 Iがさ、「いいこと考えた。このアサガオ抜いたらダメだよと書く。」と言う。Yzが「でも、赤ちゃん読めないよ。」と言うと、Sが「にじさん(3歳児)も!」と言う。Hが「ひかりさん(4歳児)は読めるよ。」と言う。保育者は一つ一つの発言を確認していきリピートする。Nが「あ!そうや、すみれさん(0歳児)の先生とか、文字も読めるやん。だからさ、先生がよく赤ちゃんたちを見て、教えてあげる。」と言う。Iが「そうや、まずは字を書いて、そらさんが教えてあげる。」と言う。Yzが「先生もいないのに、そらクラスがそこにいて止めてあげる。」と言うと、Yuが「それするの?」と言う。Iが「あのさ、先生もさ、みんなのお世話しないといけないから、ずっとそこにいるとしんどくなっちゃうから、そらさんが読んであげる。」Nが「でもさ、そらさんも見れない時もある。」と言う。Sが「やっぱり、先生が疲れちゃうから、そらさんが先生になったほうがいい。」と言う。保育者が「そらさんはずっとアサガオ見れるの?」と聞くと、みな首をふる。保育者が「あの机の上にあるのは危ないって言ってたけど、それはどうする?」と聞くが、アイデアが思い浮かばないので園庭に見に行くことにする。一通りの場所を見渡してみる。Yzが「みんなが気づきにくい場所に置く。」と言って保育室に戻る。

 保育者が、「Yzが言った、みんなが気づきにくい場所ってどこかな?」と聞くと、Sが「隠れる場所に置いたら、トンネルの中は?」と園庭のトンネルと提案する。Hが「暗いから、しおれちゃう!」、Nが「赤ちゃんも入るで!」、Iが「鬼ごっこしてる時さ、通るからさ、バンって当たってしまうで。」、Yuも「ケガしちゃう。」、Soも「そうやで。」と言う。Nが「トンネルの中にさ、はいるとさ、背が低いままやといいけど、大きくなったら入られへんで。」と言うと、Hが「あのさ、赤ちゃんが入ってもさ、先生が入られへんで。だから、止めてあげられへんで。」と言う。Sも「赤ちゃんとにじさんもよくトンネルに入ってるで。」と言う。

 保育者が、もう一度、看板と書くことと、そらクラスが先生になることを確認していく。「そらクラスの前におくのはどうなの?」と聞くと、Yuが「ならべかたじゃない。」と言うと、Sが「でもさ、赤ちゃんさ、そこでさ、靴下とか靴履くよ。」と言うと、Soが「降りてくる時に、くつ履いてるわ。」とSに同意する。保育者が「ほかにいい場所ない?」と聞くと、Yzが「あのさ、ひかりさんはさ、字を読めるからさ、ひかりさんの前に置いたら。」と提案する。Iが「けどさ、ひかりさん蹴っちゃうかもしれん。」と言うと、Yuが「TとかJとか。」と言う。Hが「Kはやらない。」と言う。Sが「Yuが言ったみたいに、TやJとかがけってしまうと、アサガオ育たなくなるね。」と言う。保育者が「TやJにできることあるのかな?」と聞くと、Sが「だったらさ、先にさ、手をつないでさ、観るだけだよって言ってあげればいい。」。Iが「ほんじゃさ、やらんかもしれん。」と言う。そこで、看板をつくって、先生になって、ひかりさんの前に置くことに決定した。


省察

①基盤的環境:7つの文化財産「暮らし文化」 サークルタイム

サークルタイムは任天会のどの園でも行われている。その主な目的や意義は以下のような5点になる。1)子どもの自治と自律のため、2)自己肯定感を育てるため、3)見通しと共通理解のため、4)絵本、歌、集団遊びなどの文化との出会い、5)対話的姿勢を育てるため。


②遊びの種類:サークルタイム 生活に根差して

サークルタイムも集団の中での日常である。日々過ごす中で起きたことを話し合うことは、物質的な豊かさよりも精神的な豊かさとして、そこに存在する。自分の感情や思考を表現すること、生活に対しての試行錯誤や工夫がそこに生まれてくる。しかし、それは普段の人間関係の豊かさや親しみなどとかかわってくる。そういった、人間関係を創出し、目に見えない豊かさを養うためにも、この時間が尊重されている。


③誰が遊びのイメージをリードしたのか:S、保育者、5歳児クラス

Sはまだまだ、自分のもの、自分の意見、他者の感情や意見を調整することが難しい。アサガオの鉢も自分のものとは分かっていながらも、他者への気遣いや意志の弱さからも、大切にする姿勢を示すことができない。そこを保育者がコーディネートとなり、自分の物には自分の権利があることを、クラス全員で共有し、その解決策を持っていくことを考えた。子どもたちの意見の飛び交いは、この園での生活や大人の過ごし方を見透かすかのような意見も多く飛び出ている。普段の遊びや生活の仕方とその質や子どもと保育者の関係、保育者と保育者の関係、子どもと子どもの関係、などを総動員しながら、子どもたちが話し合ていることがわかる。戦々恐々とするが、子どもの方がよくわかっているのだ。


④考察

今回のサークルタイムは7つの文化財産の中の暮らし文化に相当する。衣食住に関わることや生活スキルや自立に関わることなど、その文化の在り方を学んでいます。そこで手を抜いてはいけないことは何かを保育者も子どもたちと共に再確認する作業だったと考えられる。今回の案件も、ほっておけばいいわけで、スルーするのは簡単である。しかし、一人ひとりを大切にすると言いながら、その子のものが消失することに対して、消極的な態度を保育者が示せば、どうなるだろうか。子どもたちは、「問題とは向き合うものではなく、他者が何とかして、自分事ではない。」と感じ、姿勢を育ててしまうのではないだろうか。保育者が、まずは投げかけるところから始まった事例だが、それはNやHの姿勢や問題意識から出発させることを意識した。Sも積極的に発言し、それぞれが随所で発言することで、見事な話し合いを成立させている。わたしたちはあくまで社会や文化、公の場で育ち、生きていくことを否応なく子どもたちに教えてもらいます。「先生がよく見る」「先生もしんどくなっちゃう。」という発言から、保育者の日々の動きや気持ちを読み取っていることが理解できる。また、トンネルの中で日々起きていることを子どもたちは本当によく見て、知り、感じ、理解している。保育者だからこそ、手を抜いてはいけないものが、いかに多いかが、子どもたちの言葉から読み取ることができる。保育者としての大きな反省を持つことができ、また子どもたちに大きな感銘を受けた時間であった。子どもの自律とは、まずは保育者やその園が真剣な自律者であることから始まるのではなないだろうか。



ほかの事例
 
松本崇史(まつもとたかし)
鳴門教育大学で保育・絵本を学ぶ。絵本屋を経験し、その後、任天会の日野の森こども園にて園長を行い、ほとんど事務所におらず現場にいながら、こどもたちと遊びを謳歌している。現在、おおとりの森こども園園長。雑誌『げんき』にて「保育ってステキ」を連載中
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