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まずは「安心」から食事の時間をつくる



他者との関係から食事について考える


まず初めに、ある園での食事の様子をご紹介します。

その日のメニューはカレーでした。皆さんご存知の通り、特にカレーは匂いが食欲をそそりますよね。その園では、クラスのお部屋でごはんを炊いて、食事を取っていました。2人の担当保育士のうち1人が盛り付けなど食事の準備を行います。


クラスのお部屋で食事の準備を行うと何が起こるのでしょうか。

食事が始まる前に、匂いや香りそういったものが身近に感じやすい環境となります。食事の前からこどもの嗅覚を刺激し、こどもの気持ちが食事へと向かいやすいと思います。また、こどもの気持ちが向くことで、保育士とこどもの間で「いい匂いだね」などといった関わりが生まれるでしょう。

 

食事の時間、特に食事がまだ自立していないこどもとの食事の時間は、保育士とのやり取りが盛んに行われる場だといえます。それは、保育士とこどもの関係をつくることができる場でもあります。


入園当初、なかなか食べたがらない子も多く、そのことで悩む保育士も多いと思います。自ら意欲的にこどもが行動するためには、その空間・時間に「安心」が必要です。もちろん、食べないと心配になってしまいますが、まず考えるべきことは「どうしたら安心してもらえるのか」ということなのです。


食べてくれないからといって、「〇〇を食べないとデザート食べられないよ」などのように条件をつけてはいけません。その子が食べられないということを認めつつ、「ではどうしたら食べられるのか」ということを考えなくてはなりません。


大人でも同じだと思いますが、見知らぬ人に言われる言葉よりも、信頼している人から言われる言葉のほうが受け入れやすいと思います。信頼関係を築いた保育士の「おいしそうだね。食べてみない?」といった言葉かけは、大きな意味を持つと思います。


先ほどの園のお話に戻りますが、その園では、こどもと保育士、こどもとこども同士がよい関係だということが、食事前のカレーの話題のやり取りや食事の様子からうかがえました。「よい関係」というのは、ただいつも仲よしということではなく、お互いの気持ちをちゃんと伝え合える関係ということです。その園でも、もちろんすべてのこどもが毎日好きなメニューばかりということはないと思いますが、「食べたくないな」「苦手だな」「少し減らしてほしいな」といったこどもの気持ちが、ちゃんと認められている環境なのだと思います。




 

増山由香里(ますやまゆかり)
藤女子短期大学卒業後、幼稚園に勤務。その後、ドイツにてシュタイナー幼稚園等で実習。帰国後、保育園勤務を経て北海道大学大学院修士課程修了。現在、札幌国際大学准教授。現場に近い立場で、研究や講演をしてくださいます。著書に『具材 ーごっこ遊びを支える道具ー』(庭プレス)、共著『発達と育ちの心理学』(萌文書林)。

 
※この記事は2021年に行われた増山由香里氏による講座「乳児から幼児の食事を一から学ぶ」の第1回目をベースに編集されています。
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