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こどもの行動指標となる信頼関係



こどもの「動作」「言葉」「気持ち」をつなぐ


安心して食事の時間に向き合うには、保育士との信頼関係が必要というところまできました。これは、食事の時間に限らずですが、コミュニケーションの豊かさや他者との関係性は、こどものその後の人格形成に影響を与えます。これからこどもたちは、さまざまな新しいものに出会い、経験していきます。その時に、やってもいいか、悪いか、大丈夫か、危険かといった判断を、他者の表情や行動から学び決定していきます。ここでいう「他者」とは、「愛着対象」「信頼をおける大人」のことです。信頼関係がこどもの行動指標となるのです。


特に、保護者がいない園生活の中での愛着対象は保育者であり、基本的信頼を持つことのできる保育者は担当保育士です。保育者は、こどもにとって「信じられる他者」になるという意識を持つことが必要です。


では、どうすればよいのでしょうか。

信頼関係は、遊びと生活の両面で成り立つ園生活の中での、こどもとの対話や行為への励まし、共有や共感の積み重ねでつくられます。そして、積み重ねていく中で意識しなければならないことは、こどもの「動作」「言葉」「気持ち」をつなぐような関わりをすることです。例えば、まだ話すことのできないこどもがした動作に対して、大人が言葉を添えてあげます。そして、その動作から見える気持ちをこどもと共有し、共感します。


何かをする時には、必ず言葉を添えましょう。食事の場面では、いきなりスプーンを口に入れるのではなく、「お豆腐だね」「おいしそうだね」のように言葉を添え、スプーンをこどもの口元に持っていきます。そして言葉を添えて「おいしいね」というこどもの気持ちに応えます。もちろん、おいしくなさそうにしているこどもに「おいしいね」と言っても、気持ちはつながりません。


例えば……

酸っぱそうなトマトを食べているこども →酸っぱくてぶるっとふるえる

→「おいしいね」では言葉と気持ちがつながらない ×

→「酸っぱかったね」などこどもの気持ちを考えた言葉を添える◯


動作は、言葉であり、気持ちでもあります。言葉を使える私たち大人は、簡単に言葉だけで解決してしまうことが多いかもしれません。けれど大人自身も、動作や気持ちを添えて、こどもとコミュニケーションを取っていくことが大切です。そしてこどもは、そういった大人の動作や言葉、自身が感じていることをすべて合わせて、他者の気持ちを読み取ることができるようになっていきます。それは、人を信じる、生きていく土台となっていくのだと思います。




 

増山由香里(ますやまゆかり)
藤女子短期大学卒業後、幼稚園に勤務。その後、ドイツにてシュタイナー幼稚園等で実習。帰国後、保育園勤務を経て北海道大学大学院修士課程修了。現在、札幌国際大学准教授。現場に近い立場で、研究や講演をしてくださいます。著書に『具材 ーごっこ遊びを支える道具ー』(庭プレス)、共著『発達と育ちの心理学』(萌文書林)。

 
※この記事は2021年に行われた増山由香里氏による講座「乳児から幼児の食事を一から学ぶ」の第1回目をベースに編集されています。

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