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『誕生の神秘 ーレナルト・ニルソンの世界』(小学館)は、受精から誕生までの過程を精緻な写真で構成している感動的な本です。その中で、「胎児は4〜5か月の初めころになると、音に反応し始める。(中略)とくに母親の胃腸のグルグルという音や、血管を流れる血流の音、心臓の拍動の音などが子宮を貫通する雑音である。まだ生まれる前の赤ちゃんに歌いかけることは、一般に推奨されており、また多くの国で習慣となっている」と述べています。
また、小西行郎著『赤ちゃんと脳科学』(集英社)によれば、「お腹の中で聞こえる外の音は、実際の音とはかなり違って聞こえるという結果が出ています。(中略)まるでプールの中に潜ったときのように聞こえてしまうのです。(中略)言葉そのものを明瞭に聞きわけることはできないと考えられます。したがって、胎児への語りかけの意味は、胎児自身がそれを聞きわけているかどうかということよりも、それを行うことで母親の気持ちがリラックスし和らぐという点にあるのではないでしょうか」また「私たち大人が学習するときに使うといわれている大脳新皮質は、胎児の場合、未完成です。それ以前に、大脳新皮質だけが人間の学習に関係しているかどうかさえも現段階では不明なのです。ですから、本当に胎児に記憶力があるのか、そして、胎教が有効なのかを知ることはもっと先の課題です」と述べています。
2冊の本を引用したのは、ここに記したことを踏まえて質問に答えたいと思ったからです。まず、妊娠期間中の女性はさまざまな不安や恐れ、体調不良に見舞われます。そのような中で、できるだけ心地よく過ごすことが第一です。胎教は興味深いことではありますが、周りの家族や友達と一緒にお茶を飲んだり、音楽を聴いたり、趣味を共有したりしてゆったりと過ごすことが、お腹の赤ちゃんにとっても最も居心地のよいことです。そのようにして、「みんながあなたを待ってたよ」と赤ちゃんを迎えることに気持ちを向けてほしいと思います。
最後に小西行郎さんが胎教について釘を刺しておられるので引用しますね。「外からいろいろと刺激を与えて教育するなどということは、いかがなものでしょうか。生まれて間もなくから激しい教育競争に巻き込まれるかもしれない赤ちゃんを、せめて子宮の中では静かにしておいてやりたいと思うのです」。
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