こどものとも0.1.2. あおむしくん
園のブックファースト
調査④
赤ちゃんと絵本を読む



育児支援・家庭支援として、乳児との丁寧な絵本の関わりの実践報告。育児支援を意味のある実りある時間にするヒントに。
目次
「こどものとも0.1.2.」育児支援の手引き(毎月更新)
絵本を使った0歳児クラスでの実践(順次更新)
園でブックスタートを始める方法
園のブックスタートの始まり
園での実践を共有しよう
園でのブックスタートの方法



HOW TO
赤ちゃんと親が絵本を読み会うことで心を通わせ、喜びを分かち合う
方法1 0歳児クラス 子育て支援のための日常絵本活動

① 0歳児クラス全員分の「こどものとも0.1.2.」を用意
② 毎月届く絵本にそれぞれのこどものマークをつける
③ 月曜日〜金曜日 毎日園で一対一で読む
④ 週末 家庭に持ち帰り読んでもらう
⑤ ③④をひと月の間繰り返す
⑥ 月末に絵本を家庭にプレゼントする
月初めに届く絵本を、担任が毎日一対一でこどもをひざに抱っこして読みます。保育所保育指針にあるように、心を通わせることを第一の目的とします。左右どちらかのひざに抱っこして、「○○ちゃんの絵本を読むね」と、絵本に貼ってあるその子のマークを見せます。そして表紙を見せ、タイトル、作者名を読んで本文に入ります。
こどものリズムに合わせて、決して急がずゆっくりと読みます。途中で、絵を触ったり、なでたり、顔を近づけたり、声を出したり、読み手の目を見たりします。どれも大切なサインです。見逃さないように応じます。笑顔には笑顔で、声を出した時には同じような声で、目をのぞき込んだ時にはしっかり目を合わせます。さまざまな形で自分の気持ちを伝えようとしています。特に目を見るのは、同意を求めていることが多いです。
月曜日から金曜日まで毎日、園で一対一で読みます。金曜日から日曜日までは、お家で読んでもらうように持ち帰ってもらい、月曜日にはまた園に戻してもらいます。年度初めにその趣旨を伝えておきます。絵本を手渡す時や受け取る時に、絵本にまつわるお子さんの情報をひと言お話しできると、家庭で読むのに役に立ちます。また家庭での様子を聞けると保育士にとっての励みになります。ただし自然な形で、継続的な情報交換が望ましいです。1年後に、お母さんお父さんが「うちの子、絵本が大好きなの」と言える実感を持てたら、すばらしい子育て支援です。



育児支援の手引き
月刊絵本「こどものとも0.1.2.」
COLUMN
絵本による育児支援のための手引きとは
執筆者:藤田春義
「絵本による0歳児クラスの育児支援のための手引き」を毎月発行しています。わが子に絵本を読む楽しみを知ってもらうためのアイデアを記しています。そのうちのいくつかを紹介しましょう。
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わが子に絵本を読むきっかけになるように、担任が一対一で保育室で絵本を読んでいる様子を写真で撮り、クラスの掲示板に貼り登園や降園の時に見てもらう。月の終わりに絵本をわたす時には、この写真を一緒にプレゼントする。
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家庭で絵本を読んでいる様子を写真に撮って持ってきてもらい、クラスの掲示板に貼る。ほかのおうちの様子を見ることができて励みになり、交流の場にもなる。
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読み終わったあと、もう一度読んでもらいたい様子が見えたら、お母さんが人差し指を出して、「もう1回?」と尋ねるようにお願いする。するとこどもは「もう1回」を伝えるようになる。
これらのアイデアはほんの一例です。絵本によってさまざまなことができます。例えば、2018年1月号『ふわふわ ふうせん』の時は、1冊に1つ、風船をつけました。すると、「お家でお祖父ちゃんと風船で遊びました。」と写真付きで報告がありました。毎月のアイデアを採用してくれた園では、その様子を写真や動画で見せてくれます。私にとってもうれしいことです。
こうした育児支援を目的とした日常の絵本活動は、保育内容にも深く関わります。例えば9人のクラスなら、毎日同じ絵本をそれぞれのこどもたちに、少なくとも9回読むことになります。当然、一対一で読んでも近くにほかのこどもがいたり、読んでもらっている人にくっつくように見ているこどももいます。すると1日に幾度となく同じ絵本を見たり、聞いたりすることになります。その言葉の量を考えると、かなりのものになります。すると当然ですが、同じ絵、同じ言葉を数多く共有します。それはこどもたち一人ひとりをつなげます。同じ言葉を共有することは、同じ気持ちを共有すること。この気持ちのつながりは、日常生活のさまざまな面によい影響を与えます。
絵本を使った0歳児クラスでの実践



PRACTICE
『ぱん だいすき』
ひろのぶ乳児保育園の実践 E先生のエピソード(20--年--月)
0歳児クラスでは、月替わりで1冊絵本を用意し、壁にある小さな絵本棚に置き、こどもたちから見えるようにしています。こどもたちにとって、身近な「食べ物」が出てくる絵本は人気で、その中でも、『ぱん だいすき』は、食べることが大好きなこどもたちにとって、すっかりお気に入りの絵本となりました。まだ言葉では伝えられなくとも、絵本を指さし、保育士の顔を見ながら「よんで!」と伝えてくれています。その思いを汲み取り、保育士が絵本を手に取ると、ぱぁっと頬を赤らめ、自分の思いに応えてくれたことに喜びを感じているようでした。
言葉が出始めたこどもたちは、「ぱん」と言いながら、絵本の中のおいしそうなパンたちを指差し、時々保育士の顔を振り返ってみては、「おいしそう」「あったよ」などと教えてくれているようでした。絵をつまんで食べる表情は、お母さんと一緒に食べたことを思い出しているのでしょうか。ほっとしたような幸せそうな表情です。
食べることが大好きな女の子Kちゃん。なかなか遊びに興味を持てず、体を動かすことがおっくうになっていた時のことでした。保育士と部屋で読んでいるこの絵本が大好きになり、保育士が絵本を手にすると、一生懸命腹這いで保育士のもとへ来ていました。そして「ぱん!」と言いながら絵を指さし、保育士に一生懸命伝えようとしていました。その姿をお母さんに伝えたところ、さっそく家庭でも絵本を購入され、「家でもこんなふうに楽しんで見ています。」ということを、教えてくれました。絵本が、家庭とこどもと保育園をつないでくれるのだなぁと実感した出来事でした。また、好きなものに対する意欲がこどもたちの心を動かすのだと実感し、「自分の好きなもの」が見つかるようにお手伝いができるこの仕事に誇りを感じながら、この先、こどもたちの周りにたくさんの「好き」があふれていくことを願っています。
COLUMN

『ぱん だいすき』
征矢清 ぶん / ふくしまあきえ え
福音館書店 / ¥880
『ぱん だいすき』の親子に気持ちを合わせる
最初に、手をつないだお母さんとこどもがパン屋さんに入る場面が描かれます。こどもはショーウィンドウに並ぶパンを指さしています。ページをめくると、所狭しとパンが並ぶお店の棚が目の前に現れます。「こんにちは ぱんやさん。ぱんが いっぱい ああ いい におい。」そして次のページで、お母さんとこどもが「これも これも おいしそう。」とパンを選ぶ場面では、一つひとつのパンが描かれます。さて、いよいよ買い物です。トングに挟んで、あんぱん一つ、さくらんぼのパンも一つ。最後のページでは、食卓テーブルにおいしそうに並べられ、お茶も用意して「ぱん ぱん ぱん。ぱん だいすき。いただきまーす。」
お母さんとこどものパン屋さんでの買い物が、実に楽しそうに、おいしそうに描かれているのです。この絵本を読む親子は、絵本に出てくる親子の気持ちに自分たちを重ね合わせて、お買い物を楽しむことでしょう。赤ちゃんのために優れた絵本があることは、親にとってもこど もにとっても、すばらしいことです。



0歳児クラスでの実践集
園でのブックスタートの始まり




藤田 春義(ふじた はるよし)
1954年秋田県生まれ。むかわ町にて保育の仕事を6年余り経験し、その後、札幌第一こどものとも社に勤務。1996年に絵本とおもちゃの専門店「ろばのこ」を立ち上げ、育児教室を開催してきた。北翔大学短期大学部非常勤講師。札幌国際大学非常勤講師。
COLUMN

『ぱん だいすき』
征矢清 ぶん / ふくしまあきえ え
福音館書店 / ¥880
『ぱん だいすき』の親子に気持ちを合わせる
最初に、手をつないだお母さんとこどもがパン屋さんに入る場面が描かれます。こどもはショーウィンドウに並ぶパンを指さしています。ページをめくると、所狭しとパンが並ぶお店の棚が目の前に現れます。「こんにちは ぱんやさん。ぱんが いっぱい ああ いい におい。」そして次のページで、お母さんとこどもが「これも これも おいしそう。」とパンを選ぶ場面では、一つひとつのパンが描かれます。さて、いよいよ買い物です。トングに挟んで、あんぱん一つ、さくらんぼのパンも一つ。最後のページでは、食卓テーブルにおいしそうに並べられ、お茶も用意して「ぱん ぱん ぱん。ぱん だいすき。いただきまーす。」
お母さんとこどものパン屋さんでの買い物が、実に楽しそうに、おいしそうに描かれているのです。この絵本を読む親子は、絵本に出てくる親子の気持ちに自分たちを重ね合わせて、お買い物を楽しむことでしょう。赤ちゃんのために優れた絵本があることは、親にとってもこど もにとっても、すばらしいことです。



絵本を使った0歳児クラスでの実践
COLUMN

『くだもの』
平山和子 さく
福音館書店 / ¥990
絵本『くだもの』のマジック
平山和子さんの絵本『くだもの』は見開きで、左のページに1つの「くだもの」を描き、右のページでそのくだものを食べられるように切り分けて、「さあ、どうぞ」と言葉が添えられています。苺のページでは、左側にへたのついた苺がいくつか描かれ、右側にはへたが取られ水で洗い、白い器に盛られた苺が描かれています。しかもその器を差し出す手も描かれているのです。2歳くらいのこどもは、思わず描かれている苺をつまむふりをし、口に持っていくのです。平山和子さんは、描かれた手の持ち主の、こどもに対する愛情を絵本『くだもの』を通して描いているのです。

私はこの絵本が大好きで、こどもにも、大人にも、自分のためにも何度も読んで、さらに気付いたのは、絵本を読んでいる私のこの時間を、私自身を「さあ、どうぞ」と、差し出しているのだと。自分が今感じていること、この苺は「おいしそうだ」と思っていること、絵本に
見入っているわが子を「愛おしい」と思っていることを、わが子に差し出していると気付いたのです。そしてこどもも、苺をつまんで食べるふりをして応答している。それは、読んでいる大人の気持ちを受け止める行為です。親と子が相互に心を通わせるのが絵本を読むという行為です。私はこれが親子の幸せの形だと思います。